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ボーダーライン (8)



こちらの記事は、『君に届け』の二次小説に関する記事です。
原作とは一切、関係ありません。
記事をお読みになる前に、はじめての方は、「はじめに」を必ず、お読み頂いて、ご了承頂ける方のみ、お読みくださいますよう、お願い申しあげます。






はじめましてという方も再びこんにちはという方も、こちらの記事にアクセスありがとうございます。
え~と、ですね。
次回はR記事にする予定です。
パスワードかけますが、パスワードはパスワード記事を別にUPしますので、そちらをご覧ください。

ここで一つお詫び……
事前にパスワードを告知していた方、すみません。
パスワードを変更します(汗)
当初はメールでの申請制にしようと思っていましたが、閲覧数が予想より多いので仕事を持っている身ゆえ、返信ままならなくなりそうなので。
ちなみに今後はR記事、ラストのお話、番外編(風早視点)の3話でボーダーラインを終わらせる予定です。
もしかしたら変わるかもしれませんが……。
このお話を終わらせたら少し萌えをストックさせたいのでしばらく更新お休みする予定です。
次のお話はまだ全然具体的に考えていないので。HPに宣伝がかかる前には更新したいと思っておりますが。

このお話はR記事の一つ前のお話になります。
二人の心の葛藤を心理的な側面から描いた今回のお話、次のRのお話とちょっと重い話が続くので甘くて軽いお話が好きな方、原作が大好きまたは原作に思い入れの強い方はもしかすると不快感を覚えるかもしれません。
そういった方はどうぞ閲覧をお控えいただき、自衛下さいますようお願い申し上げます。

なんでも大丈夫という方のみ、つづきからおすすみ下さい。
ここまで長いお話を読んで下さった方、ありがとうございます。
もう少しですのでどうぞよろしくお願いたします。







 風早のアパートには数回しか訪れたことはない。勢いで向かったものの、地下鉄を下りて地上に出た途端に、暗がりの中、無事にたどり着けるか急に心配になった。
 それでもうろ覚えの記憶を甦らせながら、夢中で足を進めるうちに、見覚えのある建物の前までたどりつく。 風早の部屋の明りのついていないのが目に入り、初めて連絡もせずにやってきたことに気がついた。
 
 どうしよう……。風早くんにアルバイトの予定が入っているなんてまるで考えていなかった……。
 あわてて携帯をとり出して、呼び出しボタンに手をかけたもののふと、その手を止める。訊ねてきた理由をうまく説明できるだろうか。「もう今日は遅いから」と断られてしまったら……!?
 
 勢いにおされるように来てしまったけれども、もし「また日を改めて」と言われてしまったら、きっと思っていることの半分も言えなくなってしまうだろう。切羽詰まっているのは、自分でも十分承知していたけれども、もう今となっては逃げ道はひとかけらすら残しておきたくはない。
 時計を見るとすでに10時を過ぎている。この時間なら風早も、もう帰路についているに違いないと思い、しばらく待ってみることにした。アパートの前に立つ街路灯の下で、何度も深呼吸をくり返す。胸に手をあてて心臓を落ち着かせているうちに、遠くからこちらに向かって歩いてくる男女の姿が目に入ってきた。

「黒沼?」
 呼びかけてきた風早は、かなり驚いた顔をしている。隣に立っていた武藤は、爽子の姿を見つけて複雑そうに表情を歪めた。
「こんな時間に突然どうしたの? 連絡くれれば良かったのに」
「ごめんなさい……。あの、ちょっと風早くんに話したいことがあって」
 どうして今この場に彼女がいるんだろう……?
 思いがけない状況に激しく心をぐらつかせてしまったせいか、軽く会釈をしてきた武藤に、視線を合わせているのは辛くなった。何とか平静を装ったけれども、きっと今、すごく居心地の悪い顔をしているだろうに違いない。

「悪いけど、ちょっと武藤を通りまで送ってくるから、あがって待っててくれる? 急いで戻ってくるから」
 アパートの階段を先に駆け上がった風早は、爽子を家に入るように促した。
「座って待ってて」といいながら、オーディオラックから抜き出したCDを手に持ち、足早に玄関に向かっていく。
 ドアの閉まる音が聞こえ、ドアの向こうから慌ただしく階段を降りる足音が聞こえてきた。続いて何か二人の話し声も聞こえてきたけれども、段々とその声は小さくなっていく。
 
 一人で部屋に取り残されて、所在なく部屋を見回した。大学に入ってから風早の部屋を訪れた記憶は、片手で数えるほどにしかない。
 記憶に残っている通りの、シンプルなモノトーンのインテリアに、壁にそって置かれるデスク。デスクの上にはパソコンが置かれ、提出予定らしいレポートと、運動や生理学の本が数冊合わせて積んである。
 何度と訪れた覚えのある高校時代の風早の部屋とは、広さや家具はまるで異なっていた。それでも既視感に似た思いを抱くのは、部屋の中の空気に、風早のまとう清涼な雰囲気と、同じものを感じさせられるせいだろうか。
 背中をベッドに預け息をついているうちに、不思議と心は凪いでいくように思えた。

 どのくらいそうして座っていただろうか。数分か、数十分、もっと長い間だったのかもしれない。
 ドアの開く音がして「黒沼」と声をかけられドキリとした。戻ってきた風早は、走ってきたのか息をはずませている。
「待たせた。ごめん」といいながら呼吸を整えると、すぐにコーヒーの用意をしてくれた。部屋中に香ばしい香りが広がる。慌ただしく二人分のマグカップを手にした風早は、爽子の隣に腰を下ろした。

「ずい分待ってたでしょ。でも、今度から絶対に連絡して。俺、黒沼をこんな時間に外で一人で待たせるなんて、気が気じゃない」
「心配でたまらないから、ね」と念を押すような眼差しをされて「ごめんなさい」と謝った。風早は安堵したように息をつく。
「それで、どうしたの? 話って何?」
 武藤のことには全く触れずに、いきなり風早は切りだしてきたので、さすがに「どうして?」という気持ちがこみ上げてきた。
 話をする前に、教えてほしい。
 どうしてこんな時間に武藤さんが風早くんの家に来たのか    
 大体の答えの検討はついていたけれども、風早の口からしっかりと聞きたかった。

「あの……武藤さんは何の用事で来てたの……?」
「ああ、どうしても借りたいCDがあるからって、バイトが終わってから取りに来たんだ。明日の土曜日に出かけるから借りたいって」
「どうして……なんだろう」
「え?」
「武藤さんに言われたんだ。風早くんが好きだって。彼女になりたいって。……そういう人が風早くんの近くにいるって思うだけで、すごく気になる。私は風早くんの部屋に全然きていないのに……どうして武藤さんは何度も来てるんだろうって。こんなこと言っちゃいけないかもしれないけど、気になって仕方ないの。だから……風早くんに……何か言ってほしかった」

 驚いて目を大きく見開く風早を見て、もしかしたら無用な言葉をいってしまったのかと不安になった。衝動を抑えられずに思わず正直にいってしまったけれども、口に出すと嫌な感情に支配されそうだから黙っているつもりだったのに。
「黒沼の気にすることじゃないよ。でも、ごめん。俺、黒沼に話しがあるっていわれて、そのことで頭がいっぱいだった。こんな遅くにわざわざ何の話だろうって、それだけが気になって気になってしょうがなくって、走って帰ってきた」
 風早は爽子の話は武藤に関する話だと見当をつけたらしい。必死な様子で説明をはじめた。

「武藤からは確かに告白されたけど、俺は黒沼とつき合ってるからって、はっきりと      
「待って」と風早を制した。
「ごめんなさい。本当は……今日来たのは、武藤さんの話をしようと思ったんじゃないの。いきなり二人に会っちゃったから、ちょっと今……頭の中がいっぱいいっぱいになってて。実は……武藤さんが風早くんに気持ちを伝えたのも、風早くんがきちんと断ってくれたのも、全部知ってるの。風早くんを疑うとか、そんな気持ちは微塵もない。そうじゃなくて、本当に話したかったのは……」
 風早の気持ちを疑ったりはしていない。それなのに、抵抗するすべもなく流されるように武藤の話をしてしまった。でも、本当に話したいのは別の話だった。

「俺もきちんと話してなかったからね。黒沼の話は何でも聞きたいと思ってるよ。だから、今思ってること、小さなことでも、いいから何でも話して」
 胸の中のにしまいこんでいた想いは、どうすればうまく伝えられるだろうか。
 (相手を大切に思っていれば伝えられる)
 健人と交わした会話を思い出した。懸命に言葉を探す爽子を、風早は穏やかな目で見守っている。

「風早くんは、いつも……今みたいに私の気持ちを知りたいって言ってくれるよね。でも、風早くんだけじゃなくて、私もいつも同じように思ってる。風早くんが何を考えてて、どんなことを気にしてるのかって、いつも聞きたいと思ってる」
「俺も同じだよ」と風早は軽く微笑む。
「なのに……心配させたくないとか、気にしてほしくないっていう理由で、教えてもらえないのは嫌だし、気を遣ってほしくもない。風早くんが思ってる以上に、私が風早くんのことを知りたいって思ってるのを分かってほしい。つき合ってから、ううん、好きになってからも、その思いは変わってない。だから、最近はいつも気になってた。風早くんは何を気にしているのとか、どうして何も      いってもらえないのかって」
 思っていたことを一気に吐きだしてから。息をついた。風早は身を乗り出して爽子を覗き込む。瞳をわずかに揺らがせて、少し間をおいて訊ねてきた。

「……三浦から何か聞いたの?」
 頷くと、わずかな一瞬の間に落ち着きなく視線を彷徨わせた。ややおいてから思いっきりしかめた顔をみせる。
「アイツはまた余計なこと……」
「ちっ、ちがうの! 師匠は私が気にしているのを見かねて、話してくれたの。その……旅行に行けないっていわれてちょっと落ち込んじゃってたから」
「あの時は、黒沼を傷つけるつもりで言ったんじゃないんだ。でも……ごめん」

「ううん」と首を振った。風早を責めるつもりは毛頭なかった。
 悪かったのは自分の方だったと思う。延々と同じ所にとどまりながら、足踏みばかりをくり返した。二人に何も不安はないはずと、自分勝手に思い込んで、根拠のない自信や思い込みにとらわれていた。あげくにぐるぐると迷い続けてしまった、意気地のない自分の罪。

「何か、俺……カッコ悪いな。黒沼には知られたくなかったのに」
 風早は大きなため息をもらし、悔しいような、拗ねたような瞳を向ける。きまりの悪い思いを隠すように前髪をかき混ぜてから、一旦立ちあがった。予測していなかった事態から逃げ出すように、マグカップを手に不自然なほどゆっくりとシンクに向かって歩く。カップを置いてから隣に戻ってきた風早は再び大きく息をつき、慎重に口を開いた。

「三浦から聞いたなら分かってるだろうけど、俺、ちっとも急いでいない。黒沼には無理してほしくなかったし、まだ早いと思ってたから。だってそうでしょ? 前からずっと      怖がってる」
「た、確かに、最初に旅行の話をした時は、すぐ返事できなかったし、写真の時も大げさなくらいに……その、意識して、緊張しちゃったけど、でも、本当に突然だったから緊張しちゃってただけで……」
「黒沼は自分で気づいていないだけだよ。俺は失敗したくないけど、加減なんてできないんだ。だから……いつも黒沼と同じ方向を見ていたい」

 淡々と、感情を全く感じさせない声が響いてくる。冷静な色をおびた瞳は、全てを理解していると言いたげで      
 悟りきったような言葉は、つい最近までの爽子の態度を考えれば当然かもしれなかった。時には過剰すぎる反応をみせる爽子の態度から、おそらく風早は見抜いていたのだろう。
 無意識に爽子が深い関係になるのを避けていたのを、誰よりも爽子を見つめる風早が、気づいていないはずはない。気づかないうちに、風早との距離を縮めるのを避けて、中途半端な位置に立ち止まってしまっていた。
       でも、確かにそうだったけど……。

 この前、風早にふれられてはっきりと分かった。
 思わず体を強張らせてしまったけれども、決して    本当に    嫌だなんて思わなかった。あれからずっと考えている。ふれてきた風早のぬくもりが忘れられずに、そればかり考え続けている。      ずっと。
 コーヒーを一口含むと、つかのま安らぐような苦みが口の中に広がった。覚悟を胸に秘め、風早を正面から見据える。

「あの……今日は泊ってもいい……かな」
 頬が燃えるような熱を帯びて、向き合っているのはつらくなった。反射的に風早の胸にもたれかかるように額をあてる。
 風早の息を詰める気配を感じ取って、あらためて大胆な言葉を口走ってしまったと思った。だけど……。
「まだ電車もあるし。俺、送っていくから今日は帰った方がいい。そんな無理しなくていいよ」
 宥めるような言い方をしてくる風早の態度に、瞬時に頭は熱くなった。どうしようもないくらいの恥ずかしい台詞が、ストレートに口をついて出る。

「むっ、無理なんてしてないっ。風早くんはいつもそういう言い方ばかりするけど、私のこと、欲しくないの? そういう風に私と進んでいくのはいや?」
 風早のシャツをつかみ、必死に詰め寄る爽子にベッドにもたれたままの風早は、ややあっけにとられた表情をしていた。途方に暮れた目をして、爽子から目線をはずす。
「黒沼……俺を男だと思ってないの? 欲しいとか、欲しくないとかって、そんなの欲しいにきまってる。俺がどんなに      
 あとに続く言葉は聞こえてこなかった。重い口調は、何か感情を抑え込んでいるようにも見える。不意に気持ちが散らばってしまわないように、しっかりと抱え込むように      
 こらえるようなため息をもらして、風早は苦い笑いを見せた。

「黒沼がいつも俺を見てくれているように、俺も黒沼を見ている。だから……分かるんだ。俺はまだ待てる。高校の時から何年も大事にしてきたんだから」
 穏やかな表情の中に少しだけあきらめているような眼差し。爽子を押しとどめるような口調は優しい拒絶に聞こえる。熱い何かが心の奥から堰を切ったようにこみあげてきて、腕を離して強く握りこんだ。

「風早くんは本当にそう思ってるの? 私はもっと風早くんの本心が聞きたい。いつもはきちんと話してくれるのに、どうしてこのことだけは目をそらすの? 私のために『待てる』っていうなら、私のことを考えなければどういう答えになる? ……風早くんの本当の気持ちはちっとも教えてもらってない。」
 あふれてくる思いに声が震えてしまう。ここまで言いつのっても、風早に「これは本心だ」と答えられたら、もうどうしようもないように思えた。
 それでも、何かが確信させる。風早の見せた不可解な表情や、焦点のぼやけた瞳。戸惑いを感じさせる、曖昧で不透明なやり取り。

「黒沼はどうして分からない? ……大事にしていきたい。だから俺の気持ちはいいたくないんだ」
「……うれしいよ。風早くんに大切にしてもらえるのはうれしいけど、私……甘やかされたいわけじゃない。守られるだけの存在も、受身になってばかりもいやだし……だから、大切にしてほしいなんて、これっぽっちも思っていない。それよりも、気持ちをぶつけてもらって、同じ立場にたって話がしたい。二人のことなのに、風早くんだけが色々考えるなんていやだし、私を本当に思ってくれてるっていうなら……言いにくくても、ちゃんと話してほしいのに」
 言葉を選んでいる余裕などなく、順番も何もないままで、思いつくままに口にした。めちゃくちゃなことを言っているという自覚はあったけれども、今、この時、この場所で思いの全てをだしきってしまいたかった。
 もはや風早のためではなく、自分が前に進むために      

「確かに……怖いって思うのも本当だし、その……自分でもとまどったり、風早くんの気持ちに甘えていたのも気がついてる。でも……」
      分かってるよ」
「でもっ……でも、怖いって思っちゃいけないの? かっ、風早くんなら……かっ、風早くんとなら怖くてもいいって思えるくらい好きなのにっ……!」
 驚いて目を瞠る風早は何か言おうとしていた。それを遮ってさらに言葉を続ける。
 頬を熱いものが流れていくのを感じ取った。

「どうしたらうまく伝えられる? これ以上何ていえば真っすぐに見てもらえる? あとどのくらい好きになれば、受け止めてもらえる? かっ、風早くんは、全然、分かってないっ。私がどんなに大好きなのかって」

 口に出してみると気持ちの向かう方向があらためてはっきりとみえた。大好きな相手に望まれれば、うれしくて誰だって応えたいに違いない。求められる喜びに比べれば多少の怖さなど問題にならないと、強い思いをこめて風早をみつめた。
  風早はぼんやりと爽子を見つめながら、時々何か言いたげに口を動かそうとするけれども、言葉にならないようだった。眩しいものに目を向けるように、爽子に向かって目を細める。

「……黒沼はいつも同じ目をするね。どんな時でも、俺をまっすぐに見る」
「風早くん……」
「俺は……俺は、男だし、面と向かっていうようなことじゃないから、口に出さなかった。黒沼が俺を信じているのも分かってた。強い心で黒沼から信じられている限り、黒沼にわずかでもためらいが見えるうちは、進むつもりはなかった。黒沼はその、俺とは違って何も考えてなかったでしょ。ただ一緒にいられればいいって感じだったし。はっきりいうけど、今はともかく、前は俺と……つまり、そうなりたいっていう……そういう気持ちなかったよね?」
「う……ん」
 細い声で肯定したものの、何も考えていなかったのを認めるのは辛かった。
 最近まで風早の優しさに、何の疑問を抱かずに安心して浸っていた。もしかすると何年もの間、気づかずにいたのかもしれない。

「黒沼のこと、抱きたいといつも思ってる。いつもだよ。頭がおかしくなりそうなくらい。……知らないでしょ」
 爽子の瞳に驚きの色を感じ取った風早は、力のない笑いをみせた。
「最初は自然にまかせていればいいんじゃないかって思ってた。前に旅行の話しが出た時だって、ほんとはすっごいドキドキしてたし、今がそのタイミングなのかなあって思ったりしたよ。俺が行くって答えてたら、黒沼と旅行に行けたのかなって後からすごく後悔した。どうして行こうって言えなかったのか、俺自身も分からなくって、あの後、ずっと考えてた」
 
 すっかり覚悟を決めたようにみえる風早は、前を向いたまま口を動かし続ける。感情に身をまかせているように、その横顔には迷いは見えない。
「黒沼の家に行った時も後悔したよ。あのまま帰らずにいたほうが良かったかなって帰り道に何度も思った。でも、旅行の時も家に行った時も、色々考えても結局最後には同じ考えに行き着く。まだ早いって。まだ黒沼が追いついてないって」
 やはり風早の抱えていた想いは、爽子が思っていた以上に深いものだった。今更ながらに分かっていなかったと痛感し、脱力しながら目をそらさずに見つめていると、風早は少し気まりわるそうに体をゆらした。

「でも、自分が段々抑えきれなくなっているのを感じたんだ。理性と感情は別なんだなって、嫌になるほど感じたよ。一度、踏み越えてしまったら、きっと黒沼が嫌がっても俺、もう止められない。……無理矢理にでも抱いてしまうかもしれない。そんな自分を見せたくなかったし、そんな俺を黒沼がどう思うかを考えるだけで怖かった。だから、黒沼が絶対大丈夫って思えるまでは……って思ってた。俺……黒沼に嫌われるようなことは、何一つしたくないから」
 視線を彷徨わせる風早は、自分の心を伝える言葉を探しているように見える。
 
「その内自然にまかせるとかじゃなくて、だんだん俺のほうから……避けるっていうか、そういう気持ちに意識的に目を向けないようになっていった。我慢しすぎて、感覚を麻痺させて、そういう気持ちを忘れたいと思ってた。……馬鹿だと思うでしょ」
 そんなことない、と大きく首を振った。胸を突かれて言葉を失っていると、苦い気持ちをはき出すようにため息をついた風早は、自らを皮肉るような笑みを口の端にのぼらせる。

「昔は気持ちが通じ合っただけで満足してたのに、今はどんどん贅沢になってる。ホント、嫌になる。それに俺も正直怖かった。黒沼を傷つけたくないし、怖がらせたくない。それに、抑えられなくてみっともない俺に幻滅もしてほしくない」
 
 自嘲めいた言葉を並べた風早は、欠点をさらしているように見えるのに、なぜか胸の内は喜びに震えた。
 欲望で相手をむりやりねじまげるのではなく、大切にしてくれているから怖いといってくれる。それは爽子のことを心から、何よりも、一番に考えてくれているからに他ならない。風早の思いはただ一点しか示しておらず、全ては、はっきりとつながった。

「風早くんに旅行に行けないよって言われたときに、どうしてだろうとしか思えなかった。風早くんに大切にしてもらえてるって分かってうれしいけど……その……私は守ってほしいとかは思ってなくて、風早くんの気持ちを受け止めたいだけだから。その……いつかは風早くんの隣で自信をもっていられるような彼女になりたいって思ってる。それと、あの……私は体は丈夫なほうなので……そんなに心配しなくても、大丈夫だから……」
 昂ぶっていた感情が穏やかに引いていくのを感じる。風早の思いにふれたせいか、自分の臆病さなどいくらでも我慢出来るように思える。やわらいだ表情をして、風早は軽い笑顔を見せる。

「黒沼があんなに怖い顔してるの、初めて見たよ」
「えっ……! いや……もう……必死で……恥ずかしいです……」
 心臓に悪い会話を続けていたせいか、今更ながらに恥ずかしさがこみ上げてくる。
 真っ赤になって黙り込んでしまうと風早は肩を抱き寄せてきた。

「黒沼の言葉……最高にうれしかった。そんなこといってくれるなんて。……もう焦らすのはなしだからね」
 甘い笑顔を見せながら、風早は唇を寄せてきた。夢の中に吸い込まれるような、くらくらする熱い目まいに襲われた。












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Re: のび*さま

こんにちは。
コメントのお名前は、ちゃんと気づいていましたよ♪
このコメントを読んであれ!?なんで私分かったのかなと自答しましたが、なぜか同一人物さんだとちゃんと認識しておりました。ブログに遊びに行かせてもらった時に見たのかな?
だから怪しいヤツなんてち~っとも思いませんでしたよ。ご心配おかけしました!

とうとう最終話に向かってきました。「風早焦れ太!」には思わず笑いころげてしまいましたよ。
本当に焦らせ過ぎの感がありましたね。
次はRのお話でその次は軽いエンドのお話、そんでまた風早くんサイド(これもRです)とこの後はRづくし……。
のび*さんはRのお話大丈夫でしょうか。
ピュアなお話なのにRばっかり書いて大丈夫かと思いつつ、にやにやとRを書いております。
Rのお話に関してはちょっとでもいやだと思われたら、遠慮なく閲覧中止してくださいね~。
もしお楽しみ頂けるんでしたら、またよろしくお願いします~ヽ(´▽`)/


Re: トモ*さま

こんにちは~i-262
コメントありがとうございました。
ここまで長かったんですが、やっと二人の思いは通じさせることができました!
互いを強く思い過ぎて擦れ違ってしまったふたりですが、なんとか思いを結び合わせることができて、私もほっとしております。
ここからは甘ーい二人になってほしいと思っています。
焦らすのはもうありませんよ♪

Re: じぇぐ***さま

こんにちは。
いつも応援ありがとうございます(^▽^喜)
過分なおほめ言葉……本当にお恥ずかしい。
といっても長いおつき合いのじぇぐ***さんには、スタートからの稚拙さをご存じなので、
なんだかお言葉の重みを感じてしまいますね。

パスワードはコミックを愛読している方なら簡単なものですが、じぇぐ***さんはブロともさんなので、
パスワードなしで記事が見れると思いますよ。
でも、もし違ったらスミマセンっ……!

ちょっと頑張って次回は二話UPする予定です。
楽しみにしててくださいね~
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君に届け大好きな管理人です。仕事の合間に少しづつ、UPしております。 ブログ拍手重視しておりますので、お楽しみ頂ければ、拍手頂けると、日々の励みにさせていただきます。 又、日々の中、努力しながら生み出している作品です。無断転載、複製などは固くお断りいたします。 中傷は困りますがコメント歓迎です。初めての方でも作品の感想などお気軽にどうぞ。

ぽぷら

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